「焼きたて」のマジック

パン生地も手作りが基本

焼きたて焼きたてのイギリスパン
(紀ノ国屋フードセンター)

日本人は「手作り」と「新鮮さ」というキーワードに弱いという傾向があるようです。「手打ちソバ」と看板にかかれていると、入ってみようかという気になりますし、旅先で新鮮なお刺身を食べて感動したりします。

手作りに関しては、きっとその評価の通りでしょう(よく見ると「手打ち風」と書かれている場合を除いて)。熟練の職人の技は、なかなか機械化できません。手のひらや指先が高性能なセンサーの役割を果たし、随時調整をかけることができるからです。

しかし、新鮮さについては、よしあしです。よくよく考えれば、漬けたばかりのお漬け物は、おいしくありません。ただしょっぱいだけです。食品にかぎっていえば、「熟成」が必要なもの、効果的なものも数多くあります。

たとえばチーズ。冬の風物詩ともいえるモンドールあたりだと、熟成によって味が変わっていくのが、よくわかります。味付けポン酢なども、寝かせたほうがまろやかになる。絞りたて、出来立ての味付けポン酢は、味がとがっていたりするのです。もっと凄い例として、ウィスキーやブランデー、古酒などがありますね。10年、20年と寝かせほうが、おいしくなる。

じつは、パンもそうです。焼きたてのパンはなんともいい香りがして、とても食欲がそそられるものですが、味だけを比べるなら、数日、寝かせたほうがおいしいことが多い。味の不足を補ってあまりあるほど、焼きたての香りは格別ですが、少し時間をおいたパンのほうがおいしかったりもするのです。

食の世界では、「新しければ、新しいほどいい」という価値観は必ずしも通用しません。「新鮮」というキーワードに、「熟成」というキーワードも加えて、バランスよく判断したほうがよさそうです。(F)