ワサビ(山葵)

鮫皮でつくられたワサビ用のおろし器

ワサビワサビはアブラナ科の植物。水の中で育てると根がこのように太くなります(沢ワサビ

鮫の皮でつくったおろし器といえば、ワサビおろしです。ワサビは金気を嫌うこと、なるべく細かくおろすほうが、細胞から香気成分がたちのぼり、風味が引き立つことから、考案されたものです。

ワサビも、ダイコンやキャベツと同じアブラナ科の植物。日本原産で、日本人とのつきあいは古く、奈良時代から食していた記録が残っています。ただし当時は、薬用としての利用だったようです。

現代のように薬味として食べられるようになったのは、室町時代からだといいます。その後、ソバや寿司が庶民に普及した江戸時代に入って、日本人の食卓における本格的なワサビ利用が始まりました。それに呼応して、静岡県でワサビの人工栽培も始まっています。

刺身や寿司の薬味として、ワサビを組み合わせたところに、先人の智恵を感じます。食べておいしいだけでなく、ワサビがもつ殺菌作用によって、食中毒のリスクも小さくできるからです。

生の魚を食べるのと、加熱調理して食べるのとでは、食文化の成熟度が違うという見方があります。前者のほうが「未熟」だと思われがちですが、私は正反対だという意見です。理由は、安全に生食するほうが難しいからです。

焼いたり、煮たりして食べるほうが圧倒的に安全です。火を使いこなした人類は、安全な食生活を手にしたから、ここまで発展することができたのです。あえて生食するということは、どの魚は生食してはいけないといった、食の安全に対する知識が食文化の中にしっかり蓄積されているということです。

そうした成熟した食文化のひとつの証拠が、ワサビなのです。冬の魚がおいしい季節となりました。ワサビを鮫皮ですりおろした薬味は、風味も殺菌力も格別です。一手間かかりますが、おろしたてのワサビで、先人の智恵を味わってみてはどうでしょうか。(F)