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静岡県を流れる清流・安倍川(あべかわ)。本流にも支流にも、ひとつもダムがなく、「平成の名水百選」(環境省認定)にも選ばれた川である。


その安倍川ぞいの道を、クルマはぐんぐんと上流へとさかのぼっていく。
東名高速道静岡インターから30分も走ったところで、クルマは支流ぞいの道に入った。みるみる山が険しくなり、空が狭まる。たどりついたのは横沢地区だ。山あいの集落だが、いたるところに茶畑があるところが、静岡県らしい。


「さあ、行きましょうか」
のんびり風景を眺めていると、案内役の葉桐清巳氏(株式会社葉桐代表取締役)の声がした。目的地はまだまだ先だというのだ。再びクルマに乗り込み、後をついていく。道は急に細くなり、ブラインドコーナーの連続となる。久しぶりに山道らしい山道を走った。


着いたところは、急斜面のふもとである。ここでもまだ途中なのだという。さらにここから、100メートルほどあがったところが目的地なのだという。
「標高800メートルにある茶畑なんです」
そこは、聞きしにまさるところだった。


標高800メートルを開墾

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檜と杉の木立を抜けると、急に視界が開けてきた。なだらかな斜面に、まがうことなき茶畑が広がっている。
「こんな高いところで、茶畑やってるなんて、静岡どころか、日本中でもここくらいだ」
畑の持ち主で、紀ノ国屋山間地銘茶「とうべっとう」の生産者でもある築地勝美氏が畑で待っていてくれた。


それにしても、なぜこのような山の中なのだろう。
「中国から僧侶がチャノキを持ち帰ったとき、平地に植えず、山に植えた。茶はもともと山の植物。平地でコメを作って、山で茶をつくるものだったんさ」
言われてみると、その通りだ。1日の間でも、1年間を通じても寒暖の差が激しい山の気候が、茶をおいしくするうえ、虫の被害も、霜の被害も少ない。山で茶をつくるのは、じつは理にかなっている。その証拠に、防霜ファンがどこにもない畑なのである。


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水蒸気に全神経を傾ける築地勝美氏

「蒸し」にも技術あり

ていねいに手摘みされた茶葉は、その日のうちに横沢地区の工場まで持ち込まれる。ここからが、築地氏の腕の見せ所だ。
「築地さんは、天才的な職人ですよ」
こう評するのは、案内してくれた葉桐氏である。その腕は、最初の蒸しの段階で発揮される。


日本茶は、収穫後すぐに蒸して発酵を止めてしまうのだが、その蒸し方が難しい。短すぎると発酵が止まらないし、長すぎると風味を損なう。築地氏は、茶葉を蒸しているときの香りをかいで、蒸し時間を調節する。その調節ぶりが、なんとも絶妙なのだという。


茶葉のコンディション、その日の天候(温度と湿度)によって、最適な蒸し時間は変わる。築地氏はそれを湯気の香りから判断し、調節をする。畑から工場まで、一切の妥協のないお茶、それが「とうべっとう」(東頭)なのだ。


水だしもおいしい

茶摘みの風景を見学していると、あっという間に時間がたつ。「お茶をどうぞ」と出していただいたのは、もちろん「とうべっとう」である。淡い色だが、口に含むと芳香が身体を突き抜け、いつまでも甘みが残る。抹茶とはまた別の感覚だ。


「夏はこれもいいでしょう」
と続いて葉桐氏が用意してくださったのが、水だしの冷茶。おいしい。「200ccに10gの茶葉を入れて20分」なのだという。いい煎茶ほど、お湯でいれるときは湯の温度に気を遣う。時間はかかるが、水なら神経質になることもない。お勧めの方法である。


最初、「とうべっとう」の価格を見たときは正直驚いたが、かかる手間と質の高さに納得。それよりなにより、日本茶の底力を再発見できるところが魅力だ。紅茶も烏龍茶もコーヒーもおいしいが、煎茶もやっぱりおいしい。


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ピンと背筋をはったような元気な茶葉は、なんとそのまま食べても美味。お茶をいれたあとも楽しみが残る。シャーベットとあわせたり、スイーツ作りに利用したりと、いろいろなアイディアが浮かぶ。山の気候とていねいな仕事、そして天才的な技が生かされた「とうべっとう」は、ぜひいろんな方に再発見してもらいたいお茶である。


とうべっとう

紀ノ国屋山間地銘茶「とうべっとう」

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